瀬藤康嗣(音楽家・鎌倉在住)/アースラ・イーグリー(ダンサー・ニューヨーク在住)/マーティン・ランズ(ダンサー・メキシコシティ在住)によるプロジェクトです。
3人は2014年にマケドニアのフェスティバルで出会い、2015年5月から共同制作を開始、ニューヨーク、メキシコ、鎌倉で合計5回の滞在制作を行い、それぞれの場所では3人に加えてローカルなアーティストも参加しながらアイディアを発展させました。
公演は鎌倉、ニューヨーク、メキシコ・シティで行われ、音源はアナログレコードとしてリリースされました。
09/2016 東慶寺 (鎌倉, 日本)
03/2017 Chocolate Factory Theater (NYC, US)
08/2018 Casa de Lago (CDMX, Mexico)
Piece With Gaps for Each Other: April 2018, New York
Piece With Gaps for Each Other: Sep. 2017, 鎌倉・東慶寺
Chocolate Factory: Piece with gaps for each other Limited Vinyl
Setoh’s music traces the work’s course from phenomenological to fantastical, material to theatrical, and back. Side A plays The Chocolate Factory’s architecture for complex polyrhythm. Side B fishes the depths for bass, then lifts off and disintigrates somewhere in the Milky Way.
Bryan Rogers (Chocolate Factory Theater)
New York Times: ‘Work’ and the Feel of Private Practice Made Public
Thoughtful in its looseness, “Piece With Gaps for Each Other” seemed intent on undercutting permanence, letting nothing last for too long, and on exposing the work of producing a show. To Kohji Setoh’s rhythmically churning score, the five performers, including the lighting designer Madeline Best, assembled risers and chairs, inviting us to sit for a half-hour before dismantling them again.
Ms. Eagly and the bewitching Mina Nishimura echoed each other in spidery solos, quick entries in a choreographic sketchbook. Building toward a fleeting climax, the cast inserted LED lights into the pockmarked walls. The room glowed in darkness for a few enchanting moments, until the harsh house lights abruptly came up.
鎌倉とメキシコシティ、ニューヨークでの”人間関係”をベースに 《Piece with gaps for each other》東慶寺公演
このプロジェクトの根幹の一つは、「異なるものの共存」でした。アナログレコードには、コラボレーター3人がそれぞれ自分の視点で書いたエッセイを、日本語・英語・スペイン語で掲載しました。
すべての素材は、この場所にある。
一人ひとりのパフォーマーは、禅寺の石庭の一つひとつの岩のような存在である。
全ての要素は、同期せず、中心ではなく、うつろい、並列的である。
以上が、この作品《Piece with gaps for each other》を作る上での原則となった。このアイディアは、2016年秋に鎌倉でおこなった滞在制作の際の、禅の経験から導かれたものである。
アースラ、マーティンと私は2015年3月から共同制作を始め、2016年秋に私の拠点である鎌倉で滞在制作と公演を行うことになった。鎌倉のどの場所で公演を行うかを考えているときに、鎌倉とニューヨークとを繋ぐ2人のアーティストが心に浮かんだ。ジョン・ケージとオノ・ヨーコである。
禅から多大な影響をうけたケージにとって、師のような存在であったのが仏教学者・鈴木大拙である。大拙は1950年代にNYのコロンビア大学で禅に関する講義を担当し、受講者たちは鮮烈な衝撃を受けたが、まぎれもなくケージはその一人であった。1962年にオノらとの公演のために初来日したケージは、鈴木大拙の鎌倉における研究拠点と隣接する東慶寺に大拙を訪れている。私は、私たちの作品《Piece with gaps for each other》を、歴史ある東慶寺で上演することを決めた。
東慶寺の住職に、私たちは禅についての教えを請い、座禅の指導も受けた。座禅は、リハーサルや公演前の日課となり、それは鎌倉公演後の海外でも続いた。私たちは座禅とケージからインスピレーションをうけ、冒頭の原則にたどり着いた。
鎌倉で幼少期を過ごし、1950年代以降ニューヨークを拠点に活動するオノ・ヨーコから、自分たちの作品のアイディアをどのように表現するかという点でのインスピレーションを得た。彼女の作品は、シンプルで詩的な指示に基づくことが多い。また、オノも関わりがあった国際的な芸術運動であるフルクサスのアーティストたちが残した、複雑多様で美しいスコアの数々も、大いに参照した。
瀬藤康嗣
メキシコでは、行方不明の男性たちのポスターサイズの写真を掲げた抗議隊を数日ごとに見かける。写真に写っているのは、警察によって捕らえられたのちに犯罪組織に引き渡された、アヨツィナパ師範学校の学生43名である。積極的な行動主義で知られたその学生たちが姿を消したとき、何が起こったのかは未だ明らかではない。彼らが抗議行動に向かおうとしていたことは事実だ。
2015年3月、彼ら学生たちが失踪した6ヶ月後、右翼的ポピュリズムが全米を席巻する1年半前のこと。
安倍首相による報道の自由への抑圧により、異論を唱えるという行為が日本のメディアから消えつつあるという感覚を、康嗣は私たちに語った。福島の原発事故に対する、政府の対応への見方によっては、このように異論が消えつつある状況は大変危険かもしれない。康嗣は、私たちの作品について、どんなに小さくても、異なる視点が存在することができ、同時にお互いによって聞かれることができるようなシステムであることを望んだ。これが出発点である。
私たちは、合意と協力ではなく、相違と共存の可能性に賭けることにした。私たちは芸術的なアプローチをコントロールしない。私たちはその場で使えるもの—すなわち建物・音・観客—を用いて、お互いのためのフレームを構築する。私たちが作るのは、お互いに入れ子になっている、ザルのように中身が漏れ出るような容器である。
私たちはこの作品をさらにオープンにする。制作期間ごとに、新たなアーティストを招待し、より多くの意見を求めた。
この作品にはメッセージはない。政治とは、必ずしも内容が問題であるとは限らず、形式こそが問題となるときがあるのだ。
Ursula Eagly
線、輪郭、素材、温度、色……型……表面は、私たちが向きあってきた建築物を構成する要素である。また、重みについて語ってもよいだろう。固有の重みか、物語か。意味を生じさせるもの。改修されて現代美術館になった教会から、コミュニティの集まりの場となった禅寺の書院、昔の名残でチョコレート工場と呼ばれる劇場にいたるまで、それらのスペースに与えられる使い道である。
こうしたすべての意味がつくりだす状況のなかに、身体・音・衣装・素材を伴って私たちは身を置く。するとシステムが具現化し、それを通して私たちはディテイルや経験を引き出す。そのディテイルや経験が私たちを特徴づけ、やがてイメージ、関係、繊細な記憶となる。
私たちはこういったことを、身体(肉、声色、存在)、役割(周囲をつつみこむもの、音、型)、動作/パフォーマンス(動き、存在感、落ち着き、評価、摩擦)、色(光、抽出、線)、音(粘性、色、甘やかな、豊かな)を介してシェアする。それから原状復帰し、フィクション、幻想の外に出て、改めてそこにいる人々と出会う。
しかし、原状復帰すればすべてが元通りにはなるわけではない。それは時間が経過したからばかりでなく、構造をむきだしにし、自分たちの好みや相違点を観察してくだした決断が、状況を変えたからだ。
ここで重要なのは多孔性の構造、だれもが自由に出入りできる器である。やる、やらないは自由で、だれにでも開かれている。もちろん中からと外からでは違うのだが、私たちはその違いができる限り流動的になるよう努め、情報と経験が交換可能な場で、観客が自由にそこを通過したくなるよう仕向けるのである。
Martin Lanz Landazuri
Ursula Eagly アースラ・イーグリー
ニューヨーク在住のダンサー・振付家。プリンストン大学卒業後、2000年よりNYでの活動を開始し、Chocolate Factory Theater, Dance Theater Workshop, Danspace Project, The New Museum for Contemporary Art, The Brooklyn Museum of Art等NYの主要劇場や美術館で自作の公演を行う他、日本、イタリア、デンマーク、メキシコ、アルバニア、マケドニアなど数多くの国で公演を行っている。2011-12年にNYのダンス批評誌「Movement Research Performance Journal」の編集長を務めるなど、理論派としても知られている。
日本公演
ゲストダンサー:西村未奈/樋口信子/三石祐子
ニューヨーク公演
公演:Madeline Best(照明) Jamie Boyle(空間) Mina Nishimura(ダンス) Kathy Westwater(振付)
制作過程:Laurel Atwell, Cenk Ergün, Daria Faïn, Susan Mar Landau
メキシコ公演
公演::Ana Paula Camargo, Arely Pérez, He Jin Jang (ダンス)
制作過程:Ana Paula Camargo, Andrés De Robina, Daniel B. García, Amanda De la Garza, David Gutiérrez, Mario Lopes, Arely Pérez, Antonio Ramos, and Thais Ushirobira.
Piece with gaps for each other was commissioned by The Chocolate Factory Theater with support from the Jerome Foundation. It was made possible through the Movement Research Artist-in-Residence Program funded, in part, by the Jerome Foundation, by the Davis/Dauray Family Fund, the Andrew W. Mellon Foundation, and by public funds from the New York City Department of Cultural Affairs in partnership with the City Council. It was also developed with financial, administrative and residency support from Gibney Dance’s boo-koo Artist Residency program with funding provided by the National Endowment for the Arts and the SHS Foundation.
Performances in New York City were supported by the Japan Foundation through the Performing Arts JAPAN program and also through the generosity of the GENELEC company. The residency and performance in Kamakura was organized by ROOT CULTURE, artist collective based in Kamakura Japan, and financially supported by the Grants for Artist-In-Residence program of Kanagawa Prefecture. This work was also developed through the 2015 edition Laboratorio Condensación at Laboratorio Arte Alameda in Mexico City.