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前田富士男先生の退官記念講演会

CA390064.JPG先日、大学時代の恩師である前田富士男先生が定年を迎えられ、退官記念講演会がありました。
久しぶりの師のお話のテーマは『建築と色彩を結ぶモルフォロギー:ゲーテ自然科学と差延(Abeweichen)の様式論、そして近現代美術の表相性』。


大学教員の退官記念講演というのは、その人の研究生活の全てが凝縮されるもの。前田先生の講演は、美学の存在意義を考えるところから始まり、まず『色彩における様式論は果たして可能か』という問いを立て、そこからゲーテの色彩論と建築論、パウル・クレーらの近代絵画、ブルーノ・タウトらの近代建築などの魅力的な作品の紹介とともに進み、『透明性』『反復性』『表相性』、そしてそこにふわりと立ち現れる(Emergence)ある種のズレ(=差延 Abeweichen)が、近代以降の美術を考える鍵なのではないか、という結論というよりは問題提起で終わったように感じました。
明快な結論というよりは、物事を考える上での視点や糸口を沢山もらったような感覚。自分に対しても他者に対しても、安易な結論を容易には出さないところに、学者としての真摯さ謙虚さを感じました。
長らく使ってなかった脳のある部分が活性化されてちょっと頭痛がするくらい(苦笑)に知的で、また懐かしくも学生時代にタイムスリップする、濃密で貴重な時間でした。もっと学生時代に勉強をしておけば良かったなぁと改めて反省。
講演の後の懇親会も多数の卒業生や教職員が参加しての盛会で、前田先生の人柄が垣間見える逸話が次々に披露され、中には卒業以来10数年ぶりに会う友人も多数。
『こういう大人になりたい』というモデルになりうる人はそう多くはないけど、前田先生のフェアさ、スマートさ、誠実さ、そして知性には敬意と憧れを抱きます。これからもぜひ元気でご活躍ください。