音楽とクラウド・ファンディング : 音楽家とファンの新たな関係

『フェリス女学院大学音楽学部紀要』第14号、3-24頁、横浜:フェリス女学院大学、2014年。

 近頃、日本でもクラウド・ファンディングについて見聞きすることが多くなってきた。クラウド・ファンディングとは、『群衆を意味するcrowdと、資金調達を意味するfundingからなる造語で、資金を必要とする個人や法人がプロジェクトの中身をインターネットで公開し、運営業者がインターネット経由で資金を集め、資金を必要とする個人または法人に、投資や寄付をする仕組みの総称』(山際 2013: 10)である。音楽に関わる立場からクラウド・ファンディングが興味深いのは、ファンが直接的に資金提供することで、音楽家がやりたいことを可能にする構造にほかならない。
 もう一つ興味深いのは、売上に対して音楽家が受け取ることができる金額の比率が、既存のメディア産業と比較して格段に高いということである。旧来型のレコード会社から音楽家がCDを販売した場合、音楽家の手元に残るのは売上のわずか1割ほど、残り9割はレコード会社や所属事務所などが分配する。一方、クラウド・ファンディングにおいて調達された資金は、1〜2割程度がクラウド・ファンディング事業者に手数料として徴収されるが、残りの8〜9割が音楽家の手許に残ることになる。つまりメジャーレーベルからでは、音楽家とレコード会社の取り分が1:9であるのに対し、クラウド・ファンディングでは音楽家と事業者の取り分は9:1と完全に比率が逆転している。
 この2点を鑑みると、クラウド・ファンディングがこれからの芸術文化活動にとって非常に重要な経済的基盤の一つとなることは必定である。そこで本論では、クラウド・ファンディングとはいかなるものであるのか、また音楽の領域におけるクラウド・ファンディングの現状はどうなっているのかを、文献および事例の調査を通じて明らかにした上で、音楽にとってのクラウド・ファンディングの意味を考えたい。

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